story

名前には願いをこめるもの。

「Rs'Ink.」にも名前の由来があります。

その由来をご説明いたします。

 

 

2016.11.20 「R-TALK」 撮影者:ねぎぽん
2016.11.20 「R-TALK」 撮影者:ねぎぽん

 「R」について

病気からの治癒の力に興味がある

 

病気をした人の経験から学べる場づくりをしたい

 

そんな企画に名前をつけようと思いました。

 

 

はじめ「リバイバーズ・インク」という名前が思いつきました。

 

「リバイバー」(Reviver)

 

文字通りに「生まれ変わり」(Revive)をした人という意味でです。(辞書的には「Reviver」には「迎え酒」という意味があるようです。)

 

病気の経験をした人のことを「サバイバー」(Survivor)、「生きのびた人」と呼ぶのであれば、さらに肯定的に「新しい命に生まれ変わった」というような意味を重ねることはできないだろうかと。

 

その後、様々な検討を経て「R」だけを残すことにしましたが、この「R」にはたくさんの意味が重ねられてあります。

 

Respect

Reflection

Resilience

Revive

 

「尊敬」「省察」「回復」「再生」

 

そのすべてが病気の経験をした人にふさわしい意味を有していると感じます。

 

多様な「R」たちの活動になるようにという意味をこめて「Rs'」と名づけました。

「Ink.」について

「Ink.」は「Inc.」(有限会社)とかけた言葉です。

 

その由来はフランスの思想家ジャック・デリダの著作です。デリダには「有限責任会社」(Limited Inc.)という著作があります。

 

デリダの後半生の思索において「責任」という言葉が重要なテーマとして扱われるようになります。デリダは「責任」(responsibility)を文字通りに分割して「応答-可能性」(response-ability)と読み直します。ここで「応答可能性」とは「呼びかけ」に対して「応じること」を意味します。

 

「呼びかけ」てくるのは他者です。すべての「呼びかけ」は他者からの呼びかけです。「おーい」と誰かから呼びかけられて振り向くこと、それだけでも「責任」としての「応答可能性」となりえます。

 

ただし「呼びかけ」はこれだけにとどまりません。たとえば、重い病気にかかってしまうこと、家族に介護が必要になってしまうこと、会社が倒産してしまうこと、大規模な天災に巻きこまれてしまうこと、不意に訪れる出来事、これらもまたデリダにとって「呼びかけ」です。

 

デリダは「呼びかけ」を「他者」の到来として語っています。要するに、想定外で計算外な何かの訪れ、それが「呼びかけ」です。

 

 

 

「呼びかけ」られたら人は応えるしかありません。がんに罹ってしまった、天災に巻きこまれてしまった、マイナーな性的志向に気づいてしまった、なかったことにしようとしても、なかったことにはできません。呼びかけられてしまった事実は消えることがないのです。

 

どれほど苦しい出来事でも自分の身に引きうけるほかはない。それがデリダの語る「責任=応答可能性」だと、わたしたちは理解しています。

 

 

 

だから、「責任」を果たすとは、人が自分自身の人生を生きるということではないでしょうか。

 

人は望んでも他の誰かになることはできません。呼びかけられた出来事を無視して誰かになることはできないのです。

 

自分として生まれて自分として死んでいく。そうして自分の人生を引き受けて生きることが自分に対する「責任」です。そして、それが「呼びかけ」として訪れた他者に対する「応答=責任」でもあるわけです。

2016.11.20 「R-TALK」 撮影者:ねぎぽん
2016.11.20 「R-TALK」 撮影者:ねぎぽん

「Rs'Ink.」として

「呼びかけ」とは運命の訪れです。人は自分の運命から逃れることはできません。だから、運命を引き受けていく「責任」が重い意味をもつのです。

 

しかし、「責任」を無限に果たしつづけていくことは、誰にもできません。

 

人は神ではありません。神のように無限の力をもつことはできません。人は有限な存在、限りのある存在です。

 

どれだけ求められたとしても、100メートルを10秒で走ることは、誰にでもできることではありません。人にはそれぞれできることとできないことがあるものです。

 

すこし極端な例でしたが、もっと単純な話として、人には定められた時間、つまり定められた命の長さがあります。誰もがいつか死んでいきます。命の限りを超えて「責任」を果たすことは誰にもできません。だから「責任」は「有限責任」なのです。

 

 

 

デリダにとって「インク」とは限りあるものとして「命=時間」の隠喩でした。「Inc.」と「ink」をかけたわけです。

 

この世に生きることが、何かをなして、自分の生きた痕跡を残すこと、記憶として書き残すことであるのなら、その文字を書く「命のインク」は限られています。呼びかけに応じる責任を果たすために許された時間は有限です。

 

だから、最大限、尊重されてしかるべきものとわたしたちは考えます。

 

 

 

「Rs'Ink.」という名前は多様な「R」として生きる人の「ink」を肯定したいという願いをこめてつけました。

 

「R」として生きようとする人たちの「ink」で未来に向けて希望の文字を綴り絵を描くこと、それを目指しています。