Question

「R-TALK Interview」では病気の経験をした方にインタビューをしていきますが、インタビュー項目をあらかじめ決めておく「構造化インタビュー」を行います。

用意したインタビュー項目は、10の質問とオープニング&エンディングの質問のあわせて12の質問です。その質問で何を聞いていきたいのか、その質問をすることの目的は何かについて説明をしていきます。

 

 

OP 病気になったときのことについて教えてください

何歳のとき、どのような仕事をしているとき、あるいは、どのようなプライベートの状況で、その病気が発症/発覚したのか。当時の状況や出来事を具体的に教えてください。

目的:「自己紹介」のための問いです。インタビューを始める上で前提になる情報を共有することを目的とします。病気になる前にどのような環境にいて、どのような行動をしていたのか、具体的な情報を尋ねます。

 

1 病気になったことで変わってしまったことについて聞かせてください

健康な体から病気の体に変わってしまったことで、身に起きた変化について教えてください。身体的(物理的)な変化、精神的な変化、仕事/家庭に起きた変化も含みます。何が起き、何を思ったのか、具体的な出来事を話してください。

目的:「病気になったことで何が起きたのか」を尋ねる問いです。病気になったことで、終わってしまったことや変わってしまったことは何でしょうか。思っていたことと比べてどうだったか。健康が「終わった」ときに、何が起きたのか、何を思ったのか、具体的な情報を明確にすることを目的にします。

 

2 病気になって新たに出会った人やものについて教えてください

健康という世界から離れて、病気という世界に足を踏み入れたとき、そこで出会った人や見つけたものについて、何を見て、何を聴いて、何を感じたのかを具体的に教えてください。

目的:「問1」が健康が「終わる」ことを尋ねたのに対して、この問いでは病気が「始まる」ことに焦点を当てます。病気という経験は、健康な人たちだけで組織されていた環境を離れて、患者やケアを担当する人で構成された世界へと徐々に足を踏みいれていく時間の幅のある経験です。病気という新しい世界には先に病気になった先輩もいれば、自分より後に病気になってくる後輩もいます。そこでどのような出会いがあったのか、どのようなときに病気を実感したのか、事実ベースで尋ねる問いです。

 

3 病気の経験を共有したり話しあったりする人たちはいましたか

病気から快復に向けての過程で、自身の経験を共有したり話しあったりする人はいましたか。そして、その人たちにはどのような機会に出会いましたか。その出会いは意図的に求めたものか、偶然に出会ったのものか、そのきっかけも教えてください。そして、誰かと対話することで得た気づきや変化があれば教えてください。

目的:病気の経験を受容していくなかで、人との関わりがどのように影響したかを尋ねる問いです。病気の経験は、いままでの自分から離れて、新しい自分へと変容していく経験です。強い痛みや喪失感を覚える経験でもあります。そのとき、誰かと関わり、誰かと対話したことが喪失を受け止め、変容を引き受けるために効果的だったかどうかを尋ねることを目的とします。そして、その誰かとの出会いが、狙って得たものなのか、予想外の出会いだったのか、その出会い方についても尋ねます。

 

4 病気の経験を受容するうえで目標やモデルとなった人はいますか

身近に実在した人、フィクションの登場人物や歴史上の偉人、どちらでも結構です。モデルとなった存在は、あなたにとって、どのような存在でしたか。なにを教えてくれましたか。どのように動機づけてくれましたか。そして、モデルの人に近づくために、あなたが具体的に行った行動について教えてください。最初の小さな一歩からで結構です。

目的:病気という経験を越えていくために、道しるべとなる存在がいたかについて尋ねる問いです。未知の未来に向けて、どう生きていきたいのか、どのような人間になりたいのか、それを示してくれた他者の存在があったかどうか。治癒のプロセスに効果的だったモデルとしての誰かとの関わりを尋ねます。

 

5 病気になる前に身に着けていた技術や経験で力になったものはありますか

病気になる前から身につけていた技術や知識で、病気の経験を乗り越え、社会復帰をしていくうえで役に立ったものはありましたか。また、病気になってみたことで自分にとっての価値や意味づけが変わった技術や経験はありますか。かつての技術や知識が、実は活用できると気づいたり、意味づけが変化したりしたことがあったとすれば、それは、意図したものでしたか、それとも、偶然から生じたものですか。

目的:病気という経験には、人を強制的に、過去と向きあわせ、未来を思わさせる側面があります。古い自分から離れて、新しい自分へと変わったとき、過去の自分が別の色彩で見えてきます。過去の経験の再編(リミックス)です。この再編がどのように起きたのか、かつての自分が新しい自分に与えてくれた力とは具体的にどのようなものだったのかを尋ねる問いです。病気になる前の経験が病気の後にもどのようにすれば効果的だったのかを確認します。

 

6 病気という初めての経験に適応するためにした工夫や努力はありますか

病気という未知の環境に適合するために心がけたことや行動したことについて教えてください。価値ある情報を入手するために心がけたことはありますか。有効ではなくなってしまった価値観や技術をどのようにして手放したのでしょうか。手ごたえを感じさせてくれたものは何でしたか。変化を続けるためのモチベーションの高め方についても教えてください。

目的:レジリエンスの具体的なコツを尋ねる問いです。病気という先の見えない経験のなかで、いろいろと工夫や試行錯誤をしても、効果が実感できなければ、意欲を喪っていきます。反対に、小さくても確かな手ごたえを感じられれば、次に進んでみようという意欲を高めることができます。具体的にどんなことをして手ごたえを感じていったのか、どのような受け止め方や考え方をして工夫を重ねていったのか、それを尋ねます。

 

7 病気の心身とどのようなつきあい方をしていますか

思い通りにならないことも多い病気の心身。そのような自分の心身をどのようにとらえていますか。病気とともに生きていく上で、大事にしている心構えや体調管理の方法について教えてください。そして、その行為は、あなたにとって、どのような意味や目的をもっていますか。

目的:感情のコントロールやモチベーションのマネジメントのコツ、そして、身体状態を察知するコツを尋ねる問いです。病気は思い通りにならないことの続く逆境ですが、そのなかで好不調の波への対処やメンタルバランスの整え方をどうしているのかについて具体的に尋ねます。医療従事者から伝えられる医学的な知識や技術は一般的なものであって、個々の生活にそのまま適応させづらいこともあります。そこで、医学的な知識や技術を自分の個別的・具体的な生活に落としこんでいるのか、そのコツについても尋ねます。

 

8 病気に対応するために準備していることはありますか

治療中、あるいは治療後に体調がすぐれないとき、周囲の人の力を借りざるをえない状況で、問題やトラブルに対処するために事前に準備していることを教えてください。たとえば、頼りにできる人間関係やコミュニティはありますか。その維持のための心がけていることはありますか。そうした準備を工面することが、仕事や生きるために別の形で生きてくることはありましたか。

目的:「問7」が主観的な自己認知の「わざ」についてだったのに対して、この問いでは、外的な関係性、言いかえれば、他者に助けを求めるためのコミュニケーションのコツ、不調の際のセーフティネットづくりのコツについて、具体的な「How」を集めていくことを目的とした問いです。病気に対処するためのスキルが、人間関係調整のためのリーダーシップや調整能力として、仕事や別の場面で活きてくるという副産物があれば、それも確認します。

 

9 病気の経験を経て得た知識や技術はありますか

人生に影響を与えるほどの病気になったからこそ得られた、特別な知識や技術について教えてください。その知識や技術は具体的にどのような状況で発揮されていますか。そして、周囲の人や環境に対してどのような影響を与えていますか。習得した知識や技術を発揮するうえで、心がけていることも、あわせて教えてください。

目的:病のくれたギフトを尋ねるための問いです。人と環境は互いに影響され影響する相互的な関係にあります。環境の急激ば変化は人間個人にも大きな影響を与えますが、人は変化した環境にも次第に適応し、環境の方へと能動的に関わって、そこに変化を生みだす能力さえ生みだしていくことができます。病気という劇的な変化を通じて得た新たな能力について、そして、その能力がユニークな「強み」としてどのように発揮されているかついて尋ねます。

 

10 病気という経験をいまどのように意味づけていますか

病気という経験で新しく得た価値観や信念について教えてください。病気になる前となった後で、自己像や世界観(周囲の環境や人への感覚)に何か変化が起きましたか。過去をどう受け止め、未来をどのように思い描いているのか、教えてください。

目的:自身の過去(歴史)の物語がどのように書き換わったのか。過去の意味がどう変化したのか。そして、未来に向けてどのように生きていこうと思っているのか。病気という経験があったからこその肯定的な変容について尋ねる問いです。病気になる前と人生の目標やモチベーションに起きた変化を辿ることで、リフレクション(内省)のコツを集めることを目的とします。

 

ED 周囲からの関わりで効果的だったサポートについて教えてください

病気の経験を「学び」へと変えていくプロセスで、あって助かった周囲からの支援、あるいは、あると助かると思った支援はありますか。効果的だった周囲からの外的なサポートについて、あるいは、周囲のサポートに希望することについて訊かせてください。

目的:外的サポートについて確認する問いです。主となる10の問いは基本的に病気経験者個人の経験、個人の学びについて尋ねるものでした。治癒こそ学びであるという前提から、外的な援助については意図的に焦点をあててはきませんでした。最後の付属的な問いとして、10の問いを踏まえたうえで、今後の外的な援助の進歩に資するために、あって助かった外的援助、あると助かる外的援助について尋ねます。